La mariée
(ラ マリエ)
人数 3(2:1:0)
ジャンル ファンタジー・恋愛
所要時間 40分程度
花嫁人形のセリーヌは、人形師エミールが大好き。新しく作られたマルセルという人形は生意気な嫌な奴…だけどエミールはマルセルを売らないと言い出した。その理由とは…?
『La mariée(ラ マリエ)』 登場人物 セリーヌ…花嫁姿の女の子の人形。お転婆で気が強い。 女を兼役 マルセル…緋色の目をした男の子の人形。マルセル、エミール役のどちらかが男を兼役。 エミール…人形の町に暮らす若い人形師。貧乏。 マルセル、エミール役のどちらかが男を兼役。 【以下本編】 エミール︰(M)『人形の町』。この町はそう呼ばれている。多くの人形師が切磋琢磨し作り上げる人形は、この町の名物であり、伝統工芸だ。美しく個性的な人形が日々作られ、誰かの手元へと渡っていく。 エミール:(M)この町にはどんな人形だってある。お姫様、王子様、騎士、魔王、少年少女、赤ん坊……それから、花嫁。 エミール:(M)今日もこの町に新しい人形が生まれる……。 0: 0: セリーヌ:エミール!エミールってば! エミール:おや、どうしたんだい、セリーヌ。 セリーヌ:やっと返事をしたわね、エミール。「どうした」は私の台詞だわ。貴方がのんびり屋でいつもぼんやりしている事はよく知っているけれど、最近いつもに増してぼんやりが過ぎるわ。私はさっきから何度も貴方を呼んでいたのに。 エミール:それはすまない。窓から見える林檎の木を眺めていた。 セリーヌ:なんの為に? エミール:熟(う)れた林檎が美味しそうだなって? セリーヌ:朝から何も食べずに作業に没頭していたからお腹か空いたのかしら。 エミール:あぁ、本当だ!そういえば朝から何も食べていないね。 セリーヌ:今気付いたの?まったく、貴方は食事に対して無頓着が過ぎるわ。食事は人間にとって生きる基本でしょう?どうやったら忘れるなんて事出来るのかしら。 エミール:それでも忘れていたんだから仕方がないだろう。 エミール:っと、早く作業を再開しないと……。 セリーヌ:何を作っているの? エミール:何をって、俺は人形師だよ?人形を作っているんだ。 0:エミール、作業を再開して セリーヌ:そんな事は分かっているわ。人形と言っても色んな人形があるじゃない。大人の人形、子供の人形、男の人形、女の人形……もしかしたら動物なんて事もあるのかしら? エミール:おや、セリーヌが俺の仕事に興味を持つなんて珍しいね。新しい人形を作る度に不機嫌になる君なのに。 セリーヌ:当たり前よ。エミールが人形制作に取り掛かっている間、私は暇で仕方ないの。お喋りの相手が居なくてね。貴方は作業に没頭すると私の声も届かないし。 エミール:それについては悪いと思ってる。 セリーヌ:なら一度作業を止めて食事になさいな。空腹は作業効率を下げるわよ。 エミール:あぁ、そうだね。もう少ししたら休憩としよう。 セリーヌ:今すぐ休憩するとは言わないのね。 エミール:もう完成なんだ。ほら、あの林檎の様な緋色の瞳を嵌め込むだけ。 エミール:さぁ、出来たぞ。 セリーヌ:ふうん。随分庶民的な格好の人形なのね。 エミール:ははは、そうだね。けれど良い人形だろう? セリーヌ:……悔しいけれどそれは認めるわ。貴方の作る人形はどれも素晴らしいものだもの。 エミール:おや、嬉しい事を言ってくれるね。 マルセル:………。(目を覚まし) エミール:あ、目を覚したよ。おはよう、マルセル! マルセル:……マルセル? エミール:君の名前さ。 マルセル:……へぇ、センスのない名前だね。 エミール:そうかい?良い名前だと思うんだが? セリーヌ:随分生意気な人形ね。 エミール:こら、セリーヌ。 エミール:改めて。おはよう、そしてはじめまして、マルセル。僕は人形師のエミールだ。 マルセル:人形師?アンタが僕を作ったの?なら僕はアンタにお礼でも言えば良いのかな? マルセル:ボクヲ、ツクッテクレテ、アリガトウ。 セリーヌ:やっぱり生意気だわ。 セリーヌ:こんな人形、ちゃんと売れるのかしら!? エミール:売らないよ。 セリーヌ:えっ? エミール:マルセルは売る為に作った人形じゃないんだ。だから、売らないよ。 セリーヌ:じゃあ何の為に作ったの。決して裕福でない貴方に、売り物でない人形を作る余裕があるとは思えないわ。 エミール:あはは、耳が痛いね。 セリーヌ:エミール! エミール:まぁ良いじゃないか、そんな事は。これから宜しく頼むよ、マルセル。 マルセル:……ふん。 エミール:おや、嫌われてしまったかな?あはは。 0: セリーヌ:(M)エミールは笑っていたけれど……あの態度は無いんじゃないかしら!?あの生意気な人形、マルセル。私は気に入らないわ。あんな礼儀知らずで愛想もない人形は見たことが無い! セリーヌ:(М)………どうしてエミールは、あの人形を売らないなんて言うのかしら。私にはちっとも分からない。 セリーヌ:(М)人形にはそれぞれ役割がある。子供をあやすもの、鑑賞のためのもの、町のショーウィンドウに並ぶマネキンや田畑のかかしだって人形の一種。役割を持たない人形なんて居ない。……なら売り物でないマルセルは何の為に作られたの? セリーヌ:(M)何も分からないまま季節は巡り、やがて冬がやって来た…。 0: 0: 0:冬のある日 セリーヌ:エミール、エミールってば。何処にいるの?エミール? マルセル:エミールなら居ないよ。 セリーヌ:あらマルセル。居たのね? マルセル:エミールなら随分前に出て行ったきりだけど。 セリーヌ:出て行った?一体何処へ行ったのかしら…。 セリーヌ:私に断りもなく出掛けるなんて。帰ったら文句を言ってやるわ。 マルセル:………ふっ。 セリーヌ:何よマルセル。 マルセル:別に。よくやるなと思っただけだよ。 セリーヌ:どういう意味? マルセル:君は随分あの人形師に入れ込んで居るんだな。 マルセル:優柔不断でうだつが上がらない優男。人形師としての腕は……まぁ僕を作った男だ。認めてやってもいい。けれど売れっ子という訳でもない。この町は人形師に溢れてるからね。より腕の良い人形師に依頼が行くのは仕方がないけれど……それにしたって仕事は少ないね。貧乏で、借金さえある。あんな男の何処が良いんだか。 セリーヌ:エミールを悪く言わないで! マルセル:おや、怒ったのかい? セリーヌ:好きな人を悪く言われて怒らない者が居る? マルセル:ふ……っはは! セリーヌ:何がおかしいの!? マルセル:好きな人なんて言い出すものだから、つい笑ってしまったんだよ。 セリーヌ:何よ、私が誰を好きでいたって貴方には関係ないでしょう!貴方が何と言おうとエミールはいい男だわ、少なくともエミールは他人を貶したりしない。馬鹿にしたりしない。貴方と違ってね。私はそんなエミールだからこそ一生を添い遂げる気にもなれるのよ。 マルセル:はははは! マルセル:添い遂げる?君があの人形師にかい? マルセル:『花嫁人形』は、随分夢見がちなんだな。 セリーヌ:……ッ! マルセル:おや、怖い顔だ。何か気に触ったかい?不細工な花嫁姿の『お人形さん』。純白のドレスを着せられたせいで、人間の花嫁の様に舞い上がってしまっているのかな? マルセル:君は人形だ。人間であるあの男と添い遂げるなんて、無理に決まっているじゃないか。 セリーヌ:そんな事ない!私は『最高の人形』なのよ!エミールの一番なの!エミールがそう言った! マルセル:それは一体いつの話だい? セリーヌ:……私が作られて……目を覚ました時に……。 マルセル:あっははははは! マルセル:君は何度僕を笑わせれば気が済むんだ! マルセル:聞いたよ、君はあの人形師の『最初の作品』なんだろう?初めてあの人形師が一人で作り上げた人形。そりゃあ作った直後なら最高の人形なんて言葉も出てくるさ。けれどね、少なからず腕を磨いたあの人形師は、君よりずっと素敵な人形を作れるよ。君みたいに不細工じゃない、本当に可愛らしい人形を!君は顔や身体、服や装飾品、どこを見たって稚拙で荒削り。最高の人形?笑わせないでくれよ。 セリーヌ:煩い煩い煩い!エミールは私を最高の人形と言った!言ったのよ!なら私は最高の人形だわ、最高の人形でなければならないの!貴方と違って私は特別な人形なのよ!!特別だから、ずっと一緒に居るの!他の人形とは違う!エミールがそう言った!!! マルセル:……君も可哀想に。自分の『本当の役割』も知らないで。 セリーヌ:……!? マルセル:君は自分が『特別』だからエミールの傍に居られると思っているの? マルセル:そんな訳ないだろう。どんな人形にだって『役割』はある。エミールが君を手元に置いている意味、それも知らないまま『特別』なんて言葉に浮かれて……バカみたいだ。 0:セリーヌ、マルセルの頬を平手で打ち セリーヌ:大ッキライ!貴方なんて、居なくなっちゃえばいいのに!!! 0:マルセル、駆けて行くセリーヌの背中を見詰める マルセル:…………大ッキライ、か…。 0: 0: エミール:すっかり遅くなってしまった。……ただいま。 エミール:……珍しい事もあるもんだな。何時も迎えてくれるセリーヌの姿が見えない。 マルセル:……エミール。 エミール:おや、マルセル。ただいま。君が迎えてくれるなんて初めての事だね。セリーヌはどうしたんだい。 マルセル:………。 エミール:………何かあったのかい。 マルセル:………。 エミール:……何かあったんだね?話してごらん。俺が力になろう。 マルセル:……セリーヌが、あんたに一生添い遂げるなんて言うんだ。だから僕、そんなの無理だって……悔しくて、彼女を馬鹿にしてしまった。 エミール:悔しくて? マルセル:……うん。 マルセル:エミール。アンタは僕に言ったよね。『マルセルはセリーヌの為の人形』だって。 エミール:あぁ。言ったね。 マルセル:なのにセリーヌはアンタばかり見てる。アンタばかり追いかけて、アンタばかりを愛してる。 エミール:……それが、悔しかったの? マルセル:うん。だって僕は『セリーヌの為に生まれてきた』んだろ?それなのに、彼女はちっとも僕を見てくれない…。 エミール:…だからつい意地悪をした? マルセル:…うん。 エミール:大丈夫だよ、マルセル。エミールも君も少し意地になっただけだ。 マルセル:セリーヌは僕を許してくれるかな……。 エミール:……きっとね。俺が一緒に謝ってあげる。 マルセル:……ありがとう。 0:エミールとマルセルを覗いていたセリーヌの姿が物陰に在る セリーヌ:……あんなにしおらしいマルセル、初めて見た。これ以上怒るに怒れないじゃない…。 セリーヌ:それにしても、『マルセルが私の為の人形』というのはどういう事なのかしら。そんな話、私は一度も聞いてない……。 セリーヌ:それに、私の役割って……一体…、 0:セリーヌの言葉を遮るように大きな物音が響く マルセル:エミール!!? 0:マルセルの声にセリーヌが物陰から顔を覗かせる 0:床に倒れたエミールの姿がある。慌てて駆け寄るセリーヌ セリーヌ:エミール!?どうしたのよ、ねぇ、エミール!! セリーヌ:一体どうしたの!何があったの、マルセル!? マルセル:分からない!話をしていたらいきなり倒れて……! セリーヌ:エミール!エミール、返事をして!どうしたのよ!ねぇ、エミール!!!! 0: 0: 男:もう長く身体を悪くしていたらしい…。 女:一人で暮らしていたから、発見された時にはもう…。 男:若いが腕の良い人形師だった…。 女:可哀想に…。 男:可哀想に…。 女:あら、こんな所に『花嫁人形』が…。 男:あの人形師は独り身だったね…? 女:なら、この花嫁人形は…。 0: 0: マルセル:(M)この町の人形師には、昔から伝わる一つの風習がある。この町の人形師は、最初の一体目に必ず花嫁人形を作るのだ。 マルセル:(M)花嫁人形はその名の通り、花嫁姿の女性人形。その人形は、人形師の妻になる者に贈られる。もし、妻になる者が居なければ………その人形は人形師の死後、共に棺に納められる。 マルセル:(M)いつからある風習なのか、エミールも分からないと言っていた。どんな意味が有るのかももう分からないのだとも。それでも掟とも言えるその風習の通りに、若いエミールもまたセリーヌを作ったのだ。 マルセル:(M)そうして、誰に贈られるでもなく、エミールに寄り添い続けた花嫁人形セリーヌは、葬式を手配した人間達の手によって棺へと納められた……。 0: 0: 0:棺の中、エミールに寄り添うセリーヌ セリーヌ:……エミール、貴方とても冷たいわ。人形師のくせにまるで貴方が人形みたい。 セリーヌ:どうして私に病気の事を黙っていたの?貴方の事だもの、きっと心配を掛けたくなかった、とでも言うんでしょ。知っているわ、長い付き合いだもの。けれどね、もし…もしよ?貴方の病気の事を知っていれば………私にも何か出来たんじゃないかって、そう思うのよ。 セリーヌ:……棺の中って静かで、暗くて、寒いのね。貴方は寒くない?エミール。 セリーヌ:………随分無口になってしまったのね。まるで作業中の貴方みたい。でもいいわ、貴方の分まで私がお喋りしてあげる。朽ちるまで、ずっとよ。ねぇ、そうすれば……エミールは、寂しくない、わよ…ね……。 セリーヌ:………変ね、貴方に添い遂げると誓った私なのに、この暗闇が少し怖いのよ。貴方が返事をしてくれたなら、こんな気持ちにはならないのにね。 セリーヌ:…エミール……ねぇ、エミール……。……もう二度と私の呼び掛けには応えてくれないのね…。 セリーヌ:私、こんな風習がこの町にあるなんてちっとも知らなかったの。でも、私は貴方の『花嫁人形』だもの。大丈夫、ずっと一緒に居るわ……だってこれが私の『役割』だったんでしょう?その為に私は作られたんでしょう?……これが貴方の望み、なのよねエミール。 0:ギィと音を立て棺が開かれる 0:黙るセリーヌを覗き込む男女の影 男:まったくなんて早とちりだ。花嫁人形を一緒に墓に入れてしまうところだった。 女:本当に気の毒な事をしたわ。さあ花嫁人形さん。貴方の居るべき場所はここでは無いわ。 0:女がセリーヌを抱き上げ、そのまま何処かへ運んで行く 0:窓際へそっと降ろされるセリーヌ。隣にはマルセルの姿がある 0:男女の姿がその場から離れて行くのを確認し、セリーヌがゆっくりと口を開く セリーヌ:マルセル?一体どういう事なの?私はエミールと一緒に埋葬されるのではなかったの? マルセル:贈られる事の無かった花嫁人形は人形師の死後棺に入れられる。たしかにそんな風習がこの町にあるのは本当だよ。 マルセル:けれどね、その風習には続きがあるんだ。 セリーヌ:続き…? 0: 0: 0:回想 マルセル:花嫁人形を棺に入れる?変な風習だね。人間って本当に変な事をする。 エミール:あはははは、そうだね。けれどこの町の人形師は皆、この風習を守り続けてきたんだよ。掟、とも言える。僕もこの町の人形師の一人である以上、その掟は守らなくちゃね……。 マルセル:ねぇ、人形師。アンタは奥さんを娶(めと)らないの? エミール:こんな貧乏人形師の所に嫁いでくれる物好きなんていやしないさ。 マルセル:じゃあセリーヌは、アンタが死んだら一緒に棺に入れられるんだね。 エミール:………花嫁人形を棺に入れなくても済む方法があるんだよ。それはね、花嫁人形に花婿人形を添えてやること。 マルセル:花婿人形? エミール:君のことさ!マルセル! マルセル:僕? エミール:あぁ。俺はセリーヌの花婿として君を作ったんだから! マルセル:……でも、セリーヌはアンタの事が好きなんじゃないの?僕みたいな花婿なんて、きっとお断りだって言うに違いないよ。 エミール:……そんな事、ないよ……。君は素敵な人形だ。セリーヌだって、きっと君を気に入るはずだ……。 エミール:あぁそうだ!セリーヌはね、作業部屋の窓から外を眺めるのが好きなんだ。季節の変化にとても敏感で、俺はいつもあの子のお陰で四季を知る。それから、お喋りも大好きだ。話し相手になってやらないとすぐにへそを曲げてしまうんだよ。歌う事も、踊る事も好きだな。まぁ、歌に関してはあまり上手だとは思わないが……おっと、これは内緒だぞ。それから…、 マルセル:人形師!(エミールの台詞を遮る様に) エミール:………なんだい? マルセル:どうしてそんな話をするの? エミール:どうしてって……君にはセリーヌの事を沢山知って貰わないと。そして好きになって貰わないと。だって、君はセリーヌの花婿なんだ……。 エミール:セリーヌにはもっともっとこの世界を楽しんでほしいな。この世界には美しい景色も美しい歌もある。あの子には棺の中なんてきっと退屈だよ。 マルセル:それ……まるで、アンタ、死んじゃうみたいだ。 エミール:人はいずれ死ぬよ……。 エミール:良い子だろ、セリーヌは。少しお転婆が過ぎるけれど、とても良い子だ。俺の大事な大事な花嫁人形なんだ。 エミール:マルセル、どうかお願いだ。俺が居なくなったら………彼女の傍に居てやってくれないか。セリーヌはとても寂しがり屋だから、花婿の君が傍に居てやって欲しい。 マルセル:…………ねぇ、人形師。いや、エミール……もしかして、エミールも本当にセリーヌの事を愛しているの? エミール:マルセル。(マルセルの言葉を遮る様に) エミール:…………お願いだ、マルセル……。身勝手な人形師の最後の人形よ。僕の最期の願いを、どうか叶えておくれ…。 マルセル:……。 マルセル:……僕は、エミールに作られた人形だ。僕の務めがセリーヌと共に在ることなら、それがエミールの望みなら……僕はきっとセリーヌの傍に居るよ……。 エミール:ありがとう……マルセル。 0:回想ここまで 0: 0: マルセル:エミールは、本当に君の事を愛していたんだね。彼は君が棺の中で朽ちるまでの長い時を、寂しく一人で過ごさなくても良いように僕を作ったんだ。薬代を材料費に充て、自分の服を僕の服に仕立て直して、『君の為に僕を作った』。 マルセル:君はきっと、僕の事なんて嫌いだろ……。けどね、『僕は君の為に生まれてきた』んだ。 セリーヌ:『私の為のマルセル』。そういう意味だったのね……。 マルセル:僕を花婿だなんて思わなくても良い。君がエミールの事を大好きな事は知っているから。だけど、君の傍にいる事を許してほしいんだ…。 マルセル:それが僕の存在理由なんだ。何より、エミールと約束したんだ。君に寂しい思いをさせないって。だから……、 セリーヌ:勝手だわ、エミールもマルセルも。私の知らないところでそんな約束をして。私、少し怒ってるのよ。 マルセル:ごめんね、セリーヌ……。僕は酷いことを言った。君は本当にエミールに愛された最高の『花嫁人形』だったんだよ。 セリーヌ:……エミール。 セリーヌ:……ねぇ、マルセル。この窓からは林檎の木が見えるのよ。毎年花を咲かせて真っ赤な実を作るの。夏には小鳥が枝に巣を作るわ。雛鳥ってとても可愛いのよ?……この世界にはとても美しいものが沢山あるわ。貴方もきっとこの世界がもっと大好きになるわ。私の好きな歌も教えてあげる、貴方は私の歌に合わせて踊ってね? マルセル:エミールは、君の歌は余り上手くないって言ってた。 セリーヌ:ふふっ、失礼ね! セリーヌ:……私きっと貴方のことを今より好きになるわ。そうね……エミールの次くらいには。 マルセル:うん。 セリーヌ:エミールに会いにも行きましょう。こっそりこの工房を抜け出して。花を摘んでお墓に供えるの。 マルセル:うん。 セリーヌ:貴方は残酷なくらい優しいわ、エミール……だから私、もう少しこの世界を生きるわね。 0: 0: 0: エミール:(M)愛しいセリーヌ、俺が誰より信頼するマルセル。君たちに勝手を強いる俺を許してくれ。けれど俺は、俺の分まで二人にこの美しい世界を喜び楽しんで欲しいんだ。きっと君たちは沢山喧嘩もするだろうし、楽しい事ばかりじゃないかもしれない。けれど、二人なら大丈夫。俺はそう信じてるよ。 エミール:(M)その工房は僕の妹夫婦が預かってくれる。だから安心してこの世界を遊んでおいで。そんな『役割』をもつ人形がいてもいいだろう?君たちが永い永い眠りにつくその日まで、まだ時間はたっぷりあるんだから。 (了)