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拗らせ家庭教師と僕

人数      2(2:0:0)

ジャンル    コメディ

所要時間    30分程度

受験を控えた少年の元に厨二病を拗らせた家庭教師がやってきた!

『拗らせ家庭教師と僕』    登場人物       生徒…若村真五(わかむら しんご)   ツッコミ気質の受験を控えた少年。または弟子。またの名をジャクソン。     先生…鈴木良平(すずきりょうへい)  厨二病を酷く拗らせた家庭教師。何人もの受験生を合格に導いた凄腕家庭教師だとの噂だが? ベルウッドでありグッドフラット。 【以下本編】  0:(どこにでもある普通の勉強部屋に少年が一人。) 生徒:今日から家庭教師の先生が来るんだよなー。何人もの生徒を有名な志望校へ合格させている凄い先生だって話なんだけど……一体どんな人なんだろう。怖い人じゃないと良いんだけど…。出来れば美人なお姉さんとかが良いな。いや、別にエロい事とか考えてる訳じゃなくて!その方が僕だってやる気が出るってだけで! 0:(ノック音。) 生徒:あ、はーい。もしかして先生かな? 0:(勢い良く開いたドアから『先生』らしき人物が登場。) 先生:お前か、俺を喚(よ)んだのは。まさかこんな年端もいかぬ餓鬼とはな……恐れ入ったよ。平凡そうな餓鬼だがその実素質は十分と言う事か。まぁいい、召喚されたからには我が力存分に振るわせてもらおう。流離(さすら)いのベルウッド!ここに見参! 生徒:やっ…ヤバイの来たぁあああ! 生徒:きっと、絶対、そういう事なんだろうけど……一応聞きます。誰ですかあなた!? 先生:おいおい、聞いて無かったのか?俺はちゃんと名乗ったはずだぜ?ベルウッド、それが今の俺の名だ。本名は……とうの昔に忘れたよ。 生徒:ベルウッド…ベルウッドベルウッド…ベル、ウッド……やはり…あなたが今日から僕の家庭教師になるっていう鈴木先生…? 先生:本名は……とうの昔に忘れたよ……。 生徒:いや、ベルは鈴でウッドは木でしょう?鈴木先生ですよね? 先生:…………本名はとうの昔に忘れたよ。 生徒:頑(かたく)なか! 生徒:えっと…今日からお世話になります!僕は、若村しん… 先生:(食い気味に)馬鹿者!真名を易々と明かす奴がどこにいる!ジャクソン! 生徒:はい? 生徒:え、って言うか今、ジャクソンって言いました?ジャクソン? 先生:貴様の名前など既に知っている。トゥルーファイブ・ジャクソン。 生徒:僕は若村真五です!若い村、真(まこと)に数字の5! 先生:古き名にしがみつき、現実から目を逸らすのかジャクソン! 生徒:今起こっている事が現実だと思いたくないのは事実です。 先生:ふ…生意気に吠えるぜ。此れが無知というものか……良いだろう。貴様の様な餓鬼を育てるのも俺が天より授かりし役目だ。俺がお前にこの世界の理(ことわり)の全てを教えてやるよ。 生徒:あ……そうだった。この人家庭教師なんだ。一応有名な先生だっていうし……ちょっと拗らせてるみたいだけど、授業の方はマトモなのかも……。 生徒:僕、どうしても行きたい学校があるんです!今の僕の成績じゃとても合格点には届かない。けど、本当に憧れの学校で……あの学校に入るためなら努力だけは惜しみません!どうか、よろしくお願いします! 先生:意気込みだけは一人前だな……いいぜ!我が智慧、お前に授けよう! 生徒:はい!よろしくお願いします! 先生:まずは召喚術に必要な古代文字を貴様に叩き込むぜ! 生徒:はい!(少し考えて)………はい? 先生:貴様の実力をまず測らせてもらう。ここに並べた古代文字を解読しろ。 0:(取り出したプリントを手渡される『生徒』。) 生徒:漢字の読み?受験に出やすい難読漢字ってやつかな……でも、こう見えて漢字は結構得意なんだよね。えーと……黄昏(たそがれ)、蜃気楼(しんきろう)、それから…浄化(じょうか)…… 先生:あーあーあー。まったく呆れたものだな、ジャクソン。 生徒:はい? 先生:こんな初級レヴェルの文字すら読めねぇのか…。トワイライト、ミラージュ、カタルシスに決まってんだろ!! 生徒:拗らせてるううぅ!!! 生徒:めっちゃ拗らせてるよこの人!やっぱり駄目だ!! 先生:駄目だ!?駄目なのはお前の頭だ。この馬鹿弟子が! 生徒:いつの間にか弟子にされてる! 先生:ジャクソン。あぁ、ジャクソン。俺は悲しい!そして嬉しい!今はノミ程の知能しかないお前が悲しい。そしてそのノミを育て上げる事が出来るのは俺しか居ないと確信して嬉しい! 生徒:ディスられてるなー。凄くディスられてる。 先生:お前がいかに不出来な弟子であろうと……俺は貴様を絶対に見捨てやしないぜ。なぁ、ジャクソン! 生徒:絶対見捨ててくれないのかー…そうかー……。 先生:さて、貴様が古代文字について学が浅いことはよくわかった。こいつは時間がかかる……よって後回しだ。 先生:そうだな……うむ、まずは錬金術を貴様に授けよう。 生徒:錬金術!?錬金術って……漫画とかによくある?格好良いんだよな、「錬成!」とか言ってさ。 先生:ジャクソン、錬金術の教えを受けた事はあるか。 生徒:ありません。っていうか、殆どの人間が受けた事ねぇよ! 先生:そうか、こちらも初心者か。ならジャクソンに合わせてまずは初級の錬金術から始めるとするか…。 生徒:いやいや待って。さっきは確かに錬金術なんて言葉に心擽られちゃったけど……どう考えたって受験に錬金術は出ないでしょ!? 先生:問一! 生徒:無視!? 先生:生命の粉塵30gと聖水170gを混ぜたとき、この蘇生薬の濃度は何%になりますか? 生徒:ってこれ数学ッ!ただの数学だよ!食塩水の濃度を求める問題!よく見るやつ!それっぽい名前に置き換えてるだけじゃん!! 先生:何だ、この問題も解けないってのか。まったく不出来な弟子だぜ。 生徒:(むっとして)いや、解けますよこれは……えっと………15%でしょう? 先生:ほう? 生徒:中学で普通に習う問題じゃないですか。流石にこれは俺も解き方を覚えてます。 先生:そうか……ならばもう一問だ! 生徒:ええどうぞ、余裕で解いてみせますよ! 先生:問二! 先生:4%のアブソリュートエリクサー300gにトワイライト・レメディエーション・ドラッグを2gを加え、フレイム・オブ・パーガトリーによってトランサブスタンシエーションさせたところ5%のアブソリュートエリクサーになりました。ブレシドゥーウォーターは何gディサピアーしましたか? 生徒:なんて? 生徒:…何を言っているのか全く微塵も分からない。分からないのに、トワイライトだけはきっちり聞き取れてしまった僕ううぅぅう! 生徒:予期せぬところでさっきの古代文字の成果があぁあ! 先生:ふん。古代文字と錬金術が無関係な物だなどと愚かにも決めつけていたな!だからお前は未熟なんだよ! 生徒:くっ…。 先生:世界の理(ことわり)は全て密接に繋がっている。因が果となり果が因となる様に、その立場を変えながらな……。物事を一方向からしか見られぬようならば、それはただの知識の詰め込みでしかない。基礎を学び応用力を身に付け、全ての事象を掌握するんだ。ともすれば、全知全能の神が如くお前の前に壁など存在しないのさ! 生徒:悔しいのに、言い返せないッ!しかも何となく言ってる事が理解出来てしまう…! 生徒:国語は国語、数学は数学……それはそうだが、全く無関係であるはずがない……だって、日本語で書かれた数学の問題を理解出来るのは国語の能力があるからだ。当たり前過ぎてそんな事を考えた事も無かった………。それぞれの科目がそれぞれの問題を解く手掛かりになっていく…そんな事は、あり得るんじゃないか!?………もしかしてこの先生、ホントにホントは凄い人なんじゃ…。 生徒:厨二病拗らせたヤッバイ大人だと内心馬鹿にしていたが、実績はあるって話なんだ………もしかして、この人のやり方を否定せず真剣に取り組めば、今はD判定のあの学校に僕も本当に入れるんじゃ…。 生徒:鈴木先生!いや、ベルウッド師匠!!僕、心を入れ替えて頑張ります。だから、僕に貴方の智慧を授けて下さい!! 先生:………………。 生徒:……師匠? 先生:………………………。 生徒:……ベルウッド師匠? 先生:………離れろ。 生徒:はい? 先生:俺から離れろーーーー!!!!! 生徒:ひぇっ!? 先生:っぐ、ぐぅ…、うう!! 先生:(唸り声を上げて苦しみ悶えて下さい) 先生:うあああぁあぁああぁぁぁぁ!!!!!! 生徒:師匠!?どうしたんですか!ベルウッド師匠! 先生:…………………ふ、ふふふはははは!!! 生徒:何だ、この異質な気配。今までもだいぶヤバイ大人だったが、それとはまた違う謎の威圧感を感じる。そう、関わってはいけない……僕などでは太刀打ち出来ない酷い厨二病の気配を感じる! 先生:漸(ようや)く外に出られた。全くコイツは自我が強くて困る……お陰でこの身体の自由を奪うのに想像以上の時間を掛けてしまった……。 先生:おい、聞こえるかベルウッド……。貴様の身体、確かにこのオレがいただいたぜ。なぁに、貴様はオレの中で少し休んでいるがいい。くはははははははは!!!! 先生:んん?……見慣れぬ顔だな、ガキ。 生徒:っ!気付かれたっ! 先生:もしかして……オマエは、ベルウッドの弟子か? 生徒:あまり肯定したくないが……その通りだ! 先生:そうかそうか。弟子か! 生徒:アンタは一体……。 先生:ベルウッドの中に存在する悪しき心。それが形を成したものこそこのオレよ。 生徒:つまり厨二病にありがちな別人格ってやつだな!?理解した!! 先生:グッドフラット。それがオレの名だ。覚えておくが良い! 生徒:グッドフラット………聞いたことがある。習ったはずだ……思い出せ……グッド、フラット、グッド、フラット……そうか!「良い」と「平ら」だ! 生徒:……こいつ本名鈴木良平(すずきりょうへい)っていうのか……。 生徒:と、ともかく!師匠を返せ!!あの人は厨二病を拗らせた痛い大人だ!だけど、今の僕には必要な人なんだ!!師匠無しに僕の夢は叶わない、ついていくって決めたんだ! 先生:はははははは!泣かせるねぇ。大した実力もないガキが、オレに楯突こうというのか。そこまで言うなら軽く遊んでやろう。 生徒:っ!? 生徒:僕にこんなヤバイ大人の相手が務まるのか!?いや、けど、志望校合格の為に、ベルウッド師匠を取り戻さないと……! 先生:行くぞ!!! 先生:泣くよ(794)ウグイス? 生徒:平安京! 先生:白紙(894)に戻そう? 生徒:遣唐使! 先生:一応やろう(1086)? 生徒:白河院政! 先生:ふはははは!やるではないかベルウッドの弟子よ! 生徒:なんて事だ……ベルウッド師匠より更にヤバイ雰囲気を醸(かも)し出しながら、真っ当な日本史の年号問題を出してくるなんて!しかも耳馴染みが良く覚えやすい語呂合わせだと!? 先生:まさかこのオレがオマエの様なガキに手を焼くとはな……。汚い人間どものせいで堕ちたこのオレが、年端もいかぬ子供に今確かな可能性を感じている……ふっ。どうやら、オレもここまでのようだ………。 生徒:え、待って?何その最後のセリフみたいなの。 先生:悪しき者は倒される、それもこの世の理(ことわり)か……。嫌でも分かる……オレはここで消えるのだな……。 生徒:待って待って待って!ちょ、消える!?待ってくださいグッドフラットさん!僕教えを受けるならあの痛いベルウッドより、あなたがいいです!グッドフラットさん!!! 先生:………我が名を呼んでくれるのか、ベルウッドの弟子よ。それはあまりに過ぎた幸いだ。ベルウッドは良い弟子を持ったな…。 生徒:話聞かねぇのはコイツもだな!!! 先生:器(うつわ)を返す時が来た。それだけの事だ…最期だというのに、こんなに清々しい気分だとはな。 先生:さらばだ、ベルウッドの弟子よ。貴様の未来に幸あらんことを、願…………うっ。(がくっと意識を失って) 生徒:グッドフラットさーーーーん!!!! 0:(少しの間。) 先生:………………ジャクソン。 生徒:……………はい。 先生:全て見ていたぞ、ジャクソン。お前の戦いを。 生徒:……………はい。 先生:初級レヴェルの古代文字すらまともに読めないお前が………あのグッドフラット相手によくやった。そして何より礼を言わなきゃならないよな。俺を助け出してくれて、ありがとう…と。 生徒:……いえ、僕なんて。だって師匠は帰ってきたけど、グッドフラットさんはもう……もう……! 先生:いつまでそう落ち込んでいるつもりだジャクソン。お前は夢に向かって歩み始めたひよっこだ。まだまだ俺が導いてやんねぇとな。お前の夢を俺に叶えさせくれ。グッドフラットの為にも! 生徒:惜しい人を亡くしました。本当に…。 先生:まだメソメソしているのか。しかたのない弟子だ。 先生:貴様の望みは何だ、ジャクソン!! 生徒:………志望校に……合格することです。 先生:そうだ。そして俺は貴様にこの世の理(ことわり)を授けると誓った男だ。涙を拭くんだジャクソン。それはウロボロスが尾を噛む痛みに涙するが如く滑稽な事だ。聖剣エクスカリバーの上でゴルゴーンの三姉妹がタップダンスを踊るよりもまだ滑稽だぜ、ジャクソン。 生徒:………ベルウッド師匠。 生徒:何を言ってるのか分かりません…! 先生:ここで足を止めるんじゃねぇ。 先生:お前は夢を叶えねなくっちゃいけねぇ!数多の同志を無慈悲に蹴り落とし、限られた枠を奪い、高らかなる勝利宣言を俺に聞かせてくれるんだろ?………忘れないでくれ、その為に俺はここにいるってことを。 先生:導いてやるぜ迷える小羊。伝説のホーム ティーチャーの二つ名をほしいままにするこの俺の智慧、お前に必ず伝授してやる! 生徒:はい。……はい!やります!僕やります! 先生:俺は決してフロクシノーシナイヒリピリフィケイションしな……!く……ぅくく、ぐ……っ!? 先生:(また悶え苦しみだす。) 生徒:師匠?え、師匠、ちょっと? 先生:(苦しみながら)この気配……奴か、奴なのか…!い、いかん、もう意識、がっ………。 0:(床に倒れ意識を無くす『先生』。) 生徒:師匠?大丈夫ですか師匠!?まさか……。 0:(少しの間の後女の高らかな笑い声と共に立ち上がり。) 先生:あっははははは!やっと隙を見せたわねベルウッド。アナタの気が緩むのをずっと待ってたのよ。グッドフラットがやられたようだけれど、アイツはアタシたちルナティック クランの中でも最弱!ルナティック クランの面汚しよ!アイツを倒したくらいでいい気にならないでねボウヤ。オネェさんが、本当の恐怖というものをアンタに刻みつけてあ・げ・る♡ 生徒:また別人格!?こいつ何人こういうの飼ってるんだよ! 先生:うふふ、ベルウッドの内なる存在は108人いるわ。 生徒:もういやだーー!普通に勉強させてくれーーー! (了)

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